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天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)を拝聴して [上皇陛下]

天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)を拝聴して(序文)

 本年(平成28年)8月8日、平成の玉音放送とも言われる、天皇陛下が国民に直接呼びかけられるビデオ・メッセージが発表されました。天皇陛下の「おことば」のビデオを拝聴し、文字をくり返し読むたびに、陛下の固いご決意をひしひしと感じました。

 「おことば」の中の言葉は「憲法の下(もと)、天皇は国政に関する権能を有しない」ため、政治的なご発言と受けとられないように最大限の配慮がなされています。 このため「陛下は高齢になられて、公務が大変になったので、譲位されたい」との意味だけを受け取っている人も多いように思います。

 私自身、陛下のおことばを本当に丁寧に読んだだろうか、読んだにしても本当に理解できているのだろうか? そんな反省をこめてあらためて全文を精読しどこまで自分が理解しているかを所感という形でまとめることにしました。

 おことば全文は「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)」として、宮内庁のホームページに掲載されています。

http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12


天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)を拝聴して(本文)

 お言葉の中で以下の3つのことが心に強く残りました。

 ― 天皇陛下は、憲法の下、政治的ご発言が制限されている
 ― 天皇の国民を思い国民のために祈るお務めについて
 ― 象徴天皇のお務めが安定的に続くこと 


 陛下のおことばは段落ごとに分けられています。最初と最後は1行なので、段落といってよいのか迷いましたが、便宜上、これらも段落と呼ばせて頂くことにしました。おことばは、10の段落で成り立っています。以下にそれぞれの段落(①~⑩)の「天皇陛下のおことば」を謹んで写し、段落ごとに私の所感を書かせていただきます。

① 戦後70年という大きな節目を過ぎ,2年後には,平成30年を迎えます。

   所感:あえて「平成30年を迎える」とあるのは、「平成30年までに今回のおことばに書かれた内容を実現してほしい」とのお気持ちであると拝察いたします。

② 私も80を越え,体力の面などから様々な制約を覚えることもあり,ここ数年,天皇としての自らの歩みを振り返るとともに,この先の自分の在り方や務めにつき,思いを致すようになりました。

   所感:「思いを致す」は、時間的・空間的に遠く離れた物事に心を向ける、思いを届かせるという意味があります。「天皇としての歩み」を時間的・空間的に遠くまで振り返り、「天皇としての自分の在り方や務め」についても遠い将来にわたって思いを届かせていらっしゃると拝察いたします。

③ 本日は,社会の高齢化が進む中,天皇もまた高齢となった場合,どのような在り方が望ましいか,天皇という立場上,現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら,私が個人として,これまでに考えて来たことを話したいと思います。

   所感:社会の高齢化が進む中、高齢の天皇の望ましい在り方についてこれまで考えて来たことを話したいとされています。

   ここで注目すべきことは、「現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」と、天皇は政治的なご発言ができないと断っていらっしゃることです。このため本当は「公」のことを話していても「個人として」との言葉を付け加えるなど、きわめて慎重に言葉を選んでいらっしゃいます。このことに留意して「おことば」を読むことが大切だと思いました。⑨番目の段落でも「憲法の下、天皇は国政に関する権能を有しない」と、政治的なご発言ができないことを話されています。

④ 即位以来,私は国事行為を行うと共に,日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を,日々模索しつつ過ごして来ました。伝統の継承者として,これを守り続ける責任に深く思いを致し,更に日々新たになる日本と世界の中にあって,日本の皇室が,いかに伝統を現代に生かし,いきいきとして社会に内在し,人々の期待に応えていくかを考えつつ,今日に至っています。

   所感:「日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方」とありますが、「象徴」という言葉について、日本国憲法で新しく採用された言葉です。明治憲法(大日本帝国憲法)では、天皇は「元首」ですから、戦前を知っている方の中には「象徴」という言葉になじまない思いもあると思います。
   けれども、今上天皇は「天皇は日本国民統合の象徴」の言葉を、日本国憲法施行後の69年間にわたって、皇太子時代からその意味を日々模索され不断のご努力により、意味があいまいであった「象徴」という言葉に「いのち」を吹き込まれたと私は思います。国民に率先して憲法を遵守するとの陛下の堅いご決意が拝察されます。

   次に伝統について、陛下がどのように考えてこられたかが書かれています。伝統は、日々新たになる日本と世界の中にあって、現代に生かされるもの、生き生きとして社会に内在するもの、人々の期待に応えるものであり、形ばかりが残り、いのちが失われたものは伝統ではないとのお考えだと拝察いたします。

⑤ そのような中,何年か前のことになりますが,2度の外科手術を受け,加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から,これから先,従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合,どのように身を処していくことが,国にとり,国民にとり,また,私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき,考えるようになりました。既に80を越え,幸いに健康であるとは申せ,次第に進む身体の衰えを考慮する時,これまでのように,全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが,難しくなるのではないかと案じています。

   所感:陛下ご自身のご病気のこと高齢による体力低下のことなどに触れられ、従来のような重い務めが果たせなくなった時のどのような身の処し方が、国、国民、後に歩む皇族にとって良いことであるか考えるようになられたと話されています。

   ここで、注目すべきことは「全身全霊」のお言葉です。陛下がこれまで「従来のような重い務め」を「全身全霊」で果たして来られたことは、80歳を越えたと思えない過密なスケジュールを拝見すれば誇張でもなんでもない、事実そのままであることが分かります。また、テレビの『皇室アルバム』『皇室日記』などで、行事に臨まれる陛下のご様子を拝見すると、その時々の務めを「全身全霊で」果たされていることが、伝わって参ります。


⑥ 私が天皇の位についてから,ほぼ28年,この間(かん)私は,我が国における多くの喜びの時,また悲しみの時を,人々と共に過ごして来ました。私はこれまで天皇の務めとして,何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが,同時に事にあたっては,時として人々の傍らに立ち,その声に耳を傾け,思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。天皇が象徴であると共に,国民統合の象徴としての役割を果たすためには,天皇が国民に,天皇という象徴の立場への理解を求めると共に,天皇もまた,自らのありように深く心し,国民に対する理解を深め,常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました。こうした意味において,日本の各地,とりわけ遠隔の地や島々への旅も,私は天皇の象徴的行為として,大切なものと感じて来ました。皇太子の時代も含め,これまで私が皇后と共に行(おこな)って来たほぼ全国に及ぶ旅は,国内のどこにおいても,その地域を愛し,その共同体を地道に支える市井(しせい)の人々のあることを私に認識させ,私がこの認識をもって,天皇として大切な,国民を思い,国民のために祈るという務めを,人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは,幸せなことでした。

   所感:この段落は、おことばの中でもっとも行数の多い段落で、その内容に圧倒されると同時に深い感動を覚えます。天皇の位についてからの28年間を振り返られるとの言葉を拝読し、昭和45年の昭和天皇の御製「よろこびもかなしみも民と共にして 年はすぎゆき いまはななそぢ」を思い出しました。同じ大御心を脈々として今上天皇も受け継いでおられることが伝わって参ります。

   天皇としてのお務めに、国事行為のほか、国民の安寧と幸せを祈ること(宮中祭祀)を大切にすると同時に、「事にあたっては(中略)人々の傍らに立ち(中略)思いに寄り添う」の言葉は被災地へのご訪問も大切にされていることがわかります。
   また「天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めると共に、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め,常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる」という意味において、陛下は、日本の各地、遠隔の島々に旅をされ、地域を支える市井の人々のあることを認識されたと書かれています。このお言葉に「君民同治の神示」を連想しました。

 「民は君を拝み、君は民を拝む。民を拝み給う治は、君を拝むところの事と一体である。」
    (谷口雅春著『御守護 神示集』「君民同冶の神示」126頁)

   「国見」のことも思い起こされます。国見とは天皇が高い丘などに登られてそこから見渡せる国土をご覧になり、豊穣を祈り、土地と人々を祝福する行事です。万葉集(巻一・二)にある、「国見」を詠った舒明天皇の歌にその情景が表わされています。

   大和には 群山(むらやま)あれど とりよろふ 天の香具山
   登り立ち 国見をすれば 国原は煙(けぶり)立ち立つ
   海原(うなはら)は かまめ 立ち立つ うまし国ぞ あきつ島 大和の国は 
    (山口悌冶著『万葉の世界と精神 前篇』156ページ)

   「(大意) 大和の国には、たくさんの山々があるが、一点非のうちどころのない、まことに円満具足な天の香具山に登って、国見をするために見はるかすと、国原にはここかしこに炊煙があまた立ちのぼり、埴安池(はにやすのいけ)や磐余池(いはれのいけ)や耳成池(みみなしのいけ)の水面には、鷗(かもめ)がしきりに飛び立ち飛び交ってゐる。なんと美しい平和な、霊々妙々な国なのであらう、この秋津島(あきつしま)、大和の国は ―― といふほどの意。」(『万葉の世界と精神 前篇』159ページ)(*一部、振り仮名を加えました)

   子供でも大人でも褒めることによってその人の本来のすばらしい姿が現れます。国も褒めて讃えられると、その本来の素晴らしい姿が現れるといわれています。

   私の解釈ですが、お国自慢も、庶民による一種の「国見」「国褒め」ではないかと思うのです。自分の郷里を褒め讃えることによって、故郷が活性化し、生き生きとなる。山を、川を、畑を、森や木を褒める、町に住む人は、街並みを、そこに住む人々を褒める。褒めることによって、土地も人も活性化する。ましてやそこに天皇という日々の祭祀で清められた方が来訪されれば、なおのこと、迎えた人々が生き生きと元気をよみがえらせ、土地全体が生気にみちた豊かな土地となるのです。何と素晴らしいご公務だろうと感嘆するばかりです。

   さらに、天皇として大切な、「国民を思い,国民のために祈るという務めを,人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは,幸せなことでした。」との言葉があります。これほどの「重い務め」を、「人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」と言い切れる陛下の言葉は、まさに慈愛あふれる国民のお父様(国父)という言葉がぴったりだと思いました。

⑦ 天皇の高齢化に伴う対処の仕方が,国事行為や,その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには,無理があろうと思われます。また,天皇が未成年であったり,重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には,天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし,この場合も,天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま,生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。

   所感:その次の段落は、天皇の高齢化による対処の仕方について、国事行為や、象徴としての行為の縮小を望まれないこと、天皇が十分に務めを果たせないまま天皇であり続ける、摂政を置く「終身在位」も望まれないことを明確に示されています。

⑧ 天皇が健康を損ない,深刻な状態に立ち至った場合,これまでにも見られたように,社会が停滞し,国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして,天皇の終焉に当たっては,重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き,その後喪儀(そうぎ)に関連する行事が,1年間続きます。その様々な行事と,新時代に関わる諸行事が同時に進行することから,行事に関わる人々,とりわけ残される家族は,非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることは出来ないものだろうかとの思いが,胸に去来することもあります。

   所感:これは、昭和天皇が崩御された時のことを思い起こして書かれていると拝察します。昭和天皇がご病気になられてから、社会の様々な方面で自粛があったこと、崩御された後も長い服喪期間があったこと、即位はその行事が終わってだった事などを思い出します。

   聞くところによると、昭和天皇の時のような盛大な喪儀の形は大正天皇以来でそれまではもっと簡素だったそうです。約2680年の長い天皇の歴史から見れば簡略化してよいとのお考えだと拝察いたします。
   天皇の崩御ではなく「太上天皇、上皇」の崩御となれば簡略化が果たされることになり、殯(もがり)の行事と即位の準備が重なることも避けられます。土葬ではなく火葬を陵墓も小さい物をと平成25年11月に決められたことと共通する、国民に負担をかけたくないとの陛下の深い御配慮が感じられます。

⑨ 始めにも述べましたように,憲法の下(もと),天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中で,このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ,これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり,相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう,そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ,ここに私の気持ちをお話しいたしました。

   所感:最後の段落では、天皇陛下が「憲法の下、天皇は国政に関する権能を有しない」と政治的な発言ができないことを書かれています。すなわち、極度に制限された言葉の中から国民に真意をくみ取って欲しいとの強い願いを込められた重要な段落だと拝察いたします。
   「象徴天皇の務めが途切れることなく、安定的に続いて行くことを念じ」という言葉により、2年後の「皇位継承」、その時の「次の皇太子不在」、「皇位の安定的継承の為に早い時期(昭和30年まで)の『皇室典範改正』が必要」という事柄が浮かび上がってきます。政治的なご発言ができない中での陛下の精一杯のメッセージであると拝察いたします。

   このまま何もしなければ、24歳の眞子内親王、21歳の佳子内親王は、数年以内にご結婚により皇族の身分を離れます。そうなれば、皇太子殿下の次世代の皇族は、敬宮愛子内親王、悠仁親王のお二人になってしまいます。もう時間がないのです。「天皇の務めが途切れることなく、安定的に続いて行く」ためには、皇室典範を改正し、愛子様が次の皇太子になり、眞子様、佳子様が女性宮家を、悠仁様が宮家を創設されることが、最も自然で最良の道であると考えていらっしゃると拝察いたします。

   いずれにしましても、天皇陛下のお気持ちのとおりに皇位継承者のことが決められるように、心より祈らせていただきます。

 ⑩ 国民の理解を得られることを,切に願っています。

   所感:「切に願う」というお言葉の中に、陛下の切迫したお気持ちが感じられます。「譲位」のための「皇室典範改正」と同時に、十年以上前に提案されたのに、未だに解決していない、安定的な皇位継承のための「典範改正」が陛下の「御悲願」であると拝察いたします。


天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)を拝聴して(結び)

 天皇陛下のおことば全文を読み直して、あらためて思うことは、陛下の言葉の一語一語の重さでした。実は「おことば」を要約してから、所感を書こうと思ったのですが、どの一語も重要に思えて要約することができず、結局、原文のまま掲載いたしました。また、「おことば」は短いから、一日か二日で所感を書き上げられると思ったのですが、結局1週間近くかかってしまいました。

 私たちは大きな歴史の転換点に立ち会っている、そんなことも思いました。
 
 私の尊敬する山口悌冶先生(故人)は、著書『万葉の世界と精神 前篇』において「飛鳥維新」という言葉を使い、飛鳥・奈良時代が日本の歴史において大きな転換点であったと書いています。男性も女性もおおらかに、神を讃え恋を詠った万葉集が生まれた飛鳥・奈良時代は、推古天皇をはじめとする8代、7人の女性天皇が活躍された時代でもありました。

 次の時代が飛鳥・奈良時代のように、女性天皇が男性天皇と同じように活躍され、女性の特性である愛と結びに満ちた輝かしい時代になってほしいとの期待に胸をふくらませています。

 いずれにしましても、陛下の大御心のままに「皇室典範改正」が速やかになされるよう、心より願い、祈らせていただきます。

 最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

                                                      (平成28年9月22日)


参考資料:

山口悌冶著『万葉の世界と精神 前篇』(昭和48年3月1日発行、日本教文社)より抜粋

『国原 ―― 香具山の眼下に開けているのは大和平野であるが、この御製の国原の言葉の内容には、大和平野を象徴として、より広く、しろしめし給ふ日本の国土全体が、舒明天皇の発想の奥深く描かれてゐるのであることを忘れてはならない。(中略)大和国原を象徴として、しろしめし給ふ国土全体が精神の視界にはっきりと映ってゐるからこそ、現実の風光と舒明帝の心象に描かれてゐる国土全体の風光とが一つに溶合ってゐるからこそ、「うまし国ぞ、あきつ島 大和の国は ―― 」の、洋々と流れる大河のやうな豊かさと、悠々と迫らぬ素朴のやうで高雅な気品と、天と地とを遍く還流するかのごときこゝろよき諧調が感じられるのではないか。』(山口悌冶著『万葉の世界と精神 前篇』157~158頁)

『今も行はせられてゐる「国見」の行事(中略)
 この日本の国土をしろしめし給ふ天皇(すめらみこと)の国見の行事は、「しろしめす」といふ言葉に相応する重大な行事であったと推察されるのである。(中略)天皇の国家的行事としての国見は、連綿と今も現に行はれてゐるのである。今上天皇の、各種の催しへのご参列、国内各地への行幸は、まさしく国見の行事でなくしてなんであらうか。国見は決して遠い古代の習俗ではない。そうみなしては根本を誤ることになる。』(『万葉の世界と精神 前篇』162~163ページ)
                                                            以 上




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