SSブログ

男系、女系の定義とは? [皇室典範改正]

20220830blogDSC_0466.JPG今日は、皇位継承における、男系、女系の定義を考えます。
いつ頃、決められたのか?
決まった定説があるのか?
どういう見方で定義が決められたのか?
などです。

天皇の皇位継承に関連して男系、女系という言葉が口にされ、2021年12月22日の政府の有識者会議報告では、女性天皇、女性宮家(女性が当主の宮家)は認めても良いが、一代限りで、配偶者や子孫は一般国民のままとすることが考えられるとしています。

+++++

“女性皇族が皇族でない男性と婚姻しても皇族の身分を
保持するという新しい制度を導入した場合、その子は皇位継承資格を持たな
いとすることが考えられます。また、配偶者と子は皇族という特別の身分を
有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとすることが考え
られます。”(p10)

(報告 令和3年12月22日「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案
に対する附帯決議」に関する有識者会議)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/pdf/houkoku_honbun_20211222.pdf

+++++

産経新聞に“「愛子天皇」待望論の危うさ”というタイトルで、施光恒(せ・てるひさ)氏が、愛子天皇反対の文章を載せています。

+++++
“皇統の系図をみれば、男系でつないできたのは明らかである(宮内庁ホームページにある系図がわかりやすい)。われわれの先祖は時に苦労して男系継承を守ってきた。いくたびか大きな危機もあった。例えば、第25代武烈天皇から第26代継体天皇への継承である。武烈天皇ののちの継承者がなかなか見いだせず、このときは応神天皇(第15代)まで約200年血統をさかのぼり、越前国三国(現在の福井県坂井市)で暮らしていた子孫を見つけ出し、即位願った。”
(中略)
“倫理学者・和辻哲郎がかつて指摘したように、日本の歴史では「国民の統一、国民の総意は、いつも天皇において表現された」(『国民統合の象徴』)。「国民の総意」とは、ある一つの時代を生きる日本国民だけの意思ではない。過去に存在した歴代の日本人の意思も含まれる。われわれは皇室の伝統を学び、先人の思いを汲(く)み取らなければならない。”
(【施光恒の一筆両断】「愛子天皇」待望論の危うさ 産経WEST 2022/8/29 19:26)
https://www.sankei.com/article/20220829-PRW2SF53QNN7PPOVO5OTL7RPZM/
+++++


施氏は、“先祖が苦労して男系継承を守ってきた”と述べますが、果たしてそうでしょうか。施氏の言う「先祖」は、悠久の日本の歴史から見ればつい最近の、明治時代以後の先祖ではないのでしょうか。

男系、女系の定義が一つであるように、多くの人が思っていられるかも知れませんが、実は、学者の間では、大きく分けても2つの定義があります。

男系、女系と、施氏が上げた、いわゆる「男系派」の定義は、平成17年(2005年)以降、世間に広められた定義で、それまで、男系、女系の定義に、学者の間で、定説はありませんでした。

私は施氏の定義とは別の定義を取ります。その定義から見れば、日本が昔から、「男系継承を苦労して守ってきた」のは、[双系=男系+女系で]「皇統継承を苦労して守ってきた」であり、日本建国の頃から、皇統は男性と女性が力を合わせて継承して来たのだと思います。

施氏は、第26代・継体天皇の例をあげていますが、第25代・武烈天皇に直系の内親王(女子)がいらっしゃれば、その方が皇位を継いだ可能性があったという学説もあります。継体天皇御即位に当たって、第24代・仁賢天皇の直系のお子様、手白香皇女(たしらかのひめみこ)とのご結婚がありました。すなわち、仁賢天皇の娘婿になられたから、天皇になれたのであり、男系の血筋だけで天皇になるのは、難しかったと言えます。


男系、女系の定義について、歴史学者の田中卓氏は、著書『愛子さまが将来の天皇陛下ではいけませんか』で、次のように述べています。

☆☆

“皇統に関して男系とか女系とか言い出したのは、西洋の学問を摂取した明治以来のことで、管見(私の考え)では、それ以前に議論の対象となったことはないように思う。
 特に旧『皇室典範』でで「男系ノ男子」と見える。”

“この問題は、前例がないため、皇室法の学会でも定説はないようだが、歴史的には、皇祖神の天照大神が「吾が子孫(うみのこ)の王(きみ)たるべき地と神勅されている通り〝天照大神を母系とする子孫〟であれば、男でも女でも、皇位につかれて何の不都合もないのである。”
(田中卓著『愛子さまが将来の天皇陛下ではいけませんか』(pp36-38)幻冬舎新書)

☆☆


日本古代史の泰斗、田中卓氏は、「男系、女系とか言い出したのは、西洋の学問を摂取した明治以来のこと」、「この問題は、前例がないため、皇室法の学会でも定説はないようだ」と述べます。

また、神道学者、高森明勅氏は、次のように述べています。双系派の定義です。

☆☆

“「女系天皇」について分かっているつもりの人でも、案外うまく整理できていないことが多い。「男系天皇」はもちろん、男性天皇の血筋をひく天皇だ。一方、女性天皇の血筋を引くのが女系天皇。ここまでは誰でも分かる。では、両親が共に天皇だった場合はどうか。具体的には、たとえば天智天皇・天武天皇のご兄弟は、父親が舒明天皇で母親は皇極天皇。こうしたケースでは〝男性優先〟の観念から、一般に〝男系〟の天皇と見られる。(中略)
ところが、父親が一般皇族で母親が天皇の場合はどうか。(中略この場合は、男女の性別よりも「天皇」という地位を重視して、女系と見るのが当たり前ではないか。そうでなければ〝天皇か皇族か〟という国家の公的秩序の根幹にかかわる区別よりも、「男尊女卑」の考え方を優先することになろう。
そして実際に、文武天皇・持統上皇の時代に制定された『大宝令』(継嗣令)では次のような条文があった。
「皇兄弟・皇子はみな親王とせよ(女帝の子もまた同じ)”
高森明勅『「女性天皇の成立」』pp118-119 幻冬舎新書

☆☆


すなわち、①男系、女系を「天皇の地位」を重視するか、②男女の性別(男尊女卑)を重視するかによって、定義が変わります。①なら、これまでの歴史の中で男系、女系の天皇がいらっしゃったことになり、②なら、すべての天皇が男系だったという、男系派の定義になります。

「皇兄弟・皇子はみな親王とせよ(女帝の子もまた同じ)

は、Aという方が天皇になられたら、A天皇の、御兄弟、皇子(男女)は、親王、内親王になられる。(A天皇が、女帝であっても、その子は親王・内親王になられる)

という意味です。御兄弟は、姉妹も含まれます。吉備内親王がそうです。


今年になって『続日本紀』を毎日少しずつ読んでいます。その中に次の文章を見つけました。

時は、靈亀元年(715年)3月、第44代元明天皇の御代です(『続日本紀』p143)。

☆☆

“丁丑(二十五日)〔天皇の〕勅があって、三品の吉備内親王の子女(父は長屋王)をすべて皇孫と同様に待遇させた。”(p161)

“二九 皇孫 吉備内親王の子女は、父系をたどると曾孫となる(天武―高市皇子―長屋王―子女)。母系をたどって皇孫とする優遇を与えたのである”(p172)
(直木孝次郎 他 訳注 『続日本紀1〔全4巻〕』東洋文庫)

☆☆

715年に、それまで「王」だった方々が、皇孫になられ、皇位継承権が与えられたことが書かれています。
吉備内親王(きびないしんのう)は、草壁皇子と第44代・元明天皇の次女で、第44代元正天皇の妹でした。第44代・聖武天皇(当時は皇太子)が病弱だったため、元明天皇の次女だった吉備内親王の子女にも、皇位継承の可能性があったので、元明天皇の孫として、皇孫とする、すなわち皇位継承権が与えられたと考えられます。

続日本紀に吉備内親王と書かれていますから、お子様方が皇孫になられる前に、内親王だったことが分かります。元明天皇のお子様で、元々皇位継承権があった吉備内親王ですが、715年から、そのお子様方も皇位継承できるように待遇させたということです。女帝の子を親王とする「継嗣令」の準用でしょうか。715年は、元正天皇即位の年ですから、それに合わせた皇孫待遇だと思います。ちなみに聖武天皇の立太子は、714年です。

吉備内親王の姉君、第44代・元正天皇の御歌について、当ブログでは4回、学ばせていただきました。よろしかったら、ご一読ください。拙文ですが、少しは、時代背景を知る手掛かりになると思います。
https://onkochisin.blog.ss-blog.jp/archive/c2306218719-1

歴史を丁寧に見て行くと、施氏の言うように“先祖が苦労して男系継承を守ってきた”(だから女系継承は認めない)ということではなく「先祖は苦労して皇統継承をまもってきた、男系継承優先だったが、女系継承も重要だった」(男系継承が行き詰まったら、女系継承も認めるのが自然の成り行きである)というのが、事実に近いと思います。


今日も読んでいただき、ありがとうございました。
朝晩秋らしく、涼しくなりました。数日前からカネタタキが鳴いています。皆様、夏の疲れで体調を崩されませんよう、お健やかにお過ごしください。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。