天皇の御歌(15)-第41代 持統天皇 [持統天皇]
気分あらたに、今日は、飛鳥時代にさかのぼって、持統天皇の御歌(おうた)を読みます。
その前に「御歌(おうた)」という呼び方について、ひと言、説明いたします。
天皇がお詠みになられた「和歌」は、本来、御製(ぎょせい)と申し上げるのが正しい言い方です。
宮内庁のホームページでは、「歌会始」において、「御製」(天皇陛下)、「御歌」(皇后陛下、皇族)、「詠進歌」(一般人から宮中に差し上げられた和歌)に、言葉が分けられています。
ですから、天皇陛下の御歌の正式な呼び方は「御製」です。
このブログでは、しかし、学ばせていただいている書籍に基づいて、より親しみやすい「御歌(みうた)」を使うことにいたしました。
「御製」は、慎んで読ませていただくための心構えを整えるのに大切な呼び方だと存じます。
一方、天皇陛下や御皇室の和歌やお言葉を、もっと身近なものとして感じたい、その思いを皆様と広く共有したい、そんな思いから、『歴代天皇の御歌 ― 初代から今上陛下まで二千首 - 』のタイトルに合わせて、「御歌(おうた)」と呼ばせていただくことにしました。
このことについて、前掲書の“編集にあたってのいくつかのノート”に、次のように記されています。
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“二、天皇がお詠みになられた「和歌」は、本来御製と申し上げるのが正しい言ひ方であるが、やゝ堅苦しい感じがしないでもないので、本書の表題には「歴代天皇の御歌(おうた)」と題させていたゞいた。古くは、「おうた」「みうた」双方の呼称もつかはれてゐるので。”
(p5)
(小田村寅二郎 小柳陽太郎 編著 『歴代天皇の御歌 ― 初代から今上陛下まで二千首 - 』 日本教文社 昭和52年8月15日 第5版)
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古くは「おうた」「みうた」双方の呼称も使われていたということで、「おうた」と呼ばせていただき、用語にとらわれずに、天皇陛下の御歌に、いっそう親しんでいただけたらと、思います。
それでは、第41代 持統天皇の御歌を、読みます。
持統天皇は、ご在世 645年~702年 58歳で崩御、 御在位 686年~697年の11年間でした。
第38代 天智天皇の皇女、第40代 天武天皇の皇后であられたかたです。
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天皇(すめらみこと)、志斐(しひ)の嫗(おみな)に賜ふ御歌(みうた)1首
不聽(いな)と言へど 強(し)ふる志斐のが 強語(しひがたり) このころ聞かずて 朕(われ)戀ひにけり
(萬葉集、巻第三)
(p49)
(小田村寅二郎 小柳陽太郎 編著 『歴代天皇の御歌 ― 初代から今上陛下まで二千首 - 』 日本教文社 昭和52年8月15日 第5版)
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「強語(しひがたり)」は、相手が聞きたがらないのにむりに話を聞かせること。
「志斐」は、飛鳥(あすか)時代の女官の氏または、名前とのことです。
「嫗(おみな)」は、年配の女性のこと。
もう聞きたくないというのに、どうぞ聞いてくださいと無理強いする、志斐の話だけれども、この頃聞かないので、なんだか恋しくなったので、聞かせてほしいという
この御歌は、実は中学か高校の教科書に載っていて、いっぺんで、好きになった御歌です、
この御歌と対になる、志斐(しひ)の嫗(おみな)の歌があります。
“志斐嫗の和(こたへ)奉る歌一首
いなと言へど 語れ語れと詔(の)らせこそ 志斐いは申せ 強語(しひかたり)と言(の)る(万3-237)“
(https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/sii.html)
いやだ、いやだと、申しますのに、天皇さまが語れ語れと、おっしゃるからこそ、私、志斐は語るのですよ。それを無理強いに語ったと言われるのは、あんまりでございます。
天皇にお仕えする女官の語りですから、歴史や宮廷の記録についての事だったかもしれません。それにしても、とうとうと話し続ける女性の姿と、その勢いに、少し疲労を覚えながらも、楽しんで聴いておられる天皇の御姿が目に浮かんで参ります。
君臣の境を超えて、女性の天皇陛下と、語りの達者な、年配の女官とのやりとりが、今でもありそうな気がして、天皇陛下が、雲の上のお人であるばかりでない、身近な御方であることに、親しみを感じました。
今日も読んでいただき、有難うございました。
今日が皆様にとって、新しい発見のある、楽しい一日でありますように。
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